こんにちは、コーヒー愛好家の皆さん。
元バリスタ現サラリーマンのtabikuraです。
今日は、World Brewers Cup 2021 チャンピオンのMatt WintonがYoutubeで語ってた「接触点理論」という抽出理論が非常におもしろかったので、
その内容をかみ砕いて記事にしてみます。
(World Brewers Cup:ハンドドリップ抽出のコーヒー技術を競う世界大会。味と技術を審査。)
世界一のブリューワーになった後も、完璧な一杯を求めて探求を続けていたというMatt。
「オンラインで推奨される高抽出・細挽きといった方法を試しても、期待通りの結果が得られない。むしろ、苦味や渋みが強くなってしまう...。
世界チャンピオンになった後も、本当に良い一杯のコーヒーを入れるのは難しかった」
という言葉が意外でしたが、その先に彼が見つけた理論がすんげーおもしろかったです。
あなたが持ってるドリッパーの見方が変わるかも?
元動画に興味ある方はここからどうぞ。
接触点理論とは何か?
この理論の概要からお伝えすると、以下になります。
"コーヒーフィルター"と"ドリッパー"の「接触している箇所」が抽出を左右するという考え。
⇒この「接触点」をコントロールすることで、水の流れを調整し、
均一で理想的な抽出を実現しようぜ!というアプローチを指します。
ではまず、接触点とは何ぞや?という話から説明しましょう。
接触点の定義:接触点(コンタクトポイント)とは、"コーヒーフィルター"が"ドリッパーの内壁や底"に触れる箇所と触れない箇所の境界線のことを指します。
より具体的に説明すると..
①完全接触領域:フィルターがドリッパーの表面に密着している部分。ここでは水の流れが極めて遅くなります。
②非接触領域:フィルターがドリッパーから完全に離れている部分。ここでも水の流れは遅くなります。
③接触点:完全接触領域と非接触領域の境界線。この線上で水の流れが最も速くなります。
視覚的にイメージすると、ドリッパーの縦断面で見たとき、フィルターが波打つように配置され、その波の「谷」と「山」の境目が接触点となります。
接触点理論の核心は、"これらの接触点が水の流れを制御する"という考え方です。
つまり、美味しいコーヒーを淹れるカギは、この「接触点」をいかにコントロールするかにあるのです。
なぜ接触点が重要なのか?
均一な抽出の実現
接触点を適切にコントロールすることで、コーヒー粉全体から均一に成分を抽出できます。
これにより、バランスの取れた味わいのコーヒーが実現します。
抽出時間の制御
接触点の数と配置を調整することで、抽出時間を細かくコントロールできます。これは、豆の種類や焙煎度に応じた最適な抽出を可能にします。
チャネリングの防止
適切な接触点の配置は、水が特定の箇所にのみ集中して流れる「チャネリング」を防ぎます。チャネリングは、不均一な抽出状態を指し、コーヒー液がコーヒーの層を均一に通り抜けないことで渋みを引き起こす原因となります。
接触点理論の実証実験
Mattは、この理論を簡単な実験で証明しました。
その実験を再現してみましょう。
実験方法
1. 準備するもの:
- ドリッパー
- ペーパーフィルター
- 200mlの水
- ストップウォッチ
- スプーン
2. 手順:
1. フィルターのみで水を落とす
2. スプーン一本でフィルターに接触点を作り、水を落とす
3. それぞれの抽出時間を計測
実験結果
- フィルターのみ:190mlの水が落ちるのに31.6秒
- スプーンで接触点作成:同じ量の水が約20秒速く落下
考察
たった一本のスプーンで作られた接触点が、これほどの違いを生み出します。
接触点理論を活かしたドリッパーデザイン
この理論を理解すると、様々なドリッパーのデザインの意味が見えてきます。
台形ドリッパー
例:Kalita Wave(カリタ ウェーブ)
特徴:低流量領域が多く、ゆっくりとした抽出が可能
接触点:底部の穴の周辺に主要な接触点が集中
溝(リブ)のあるドリッパー
例:Hario V60
特徴:溝が接触点を作り出し、流れをコントロール
接触点:溝の縁に沿って多数の接触点が形成されるため、速い抽出になる
革新的ツール「ブースター」の登場
接触点理論を実践に活かすため、Mattは「ブースター」というツールを開発しました。
ブースターとは
多数の小さな穴を持つメッシュ状のツールで、フィルターの底に置いて使用します。
ブースターの効果
① 抽出の均一性向上:多数の微細な接触点を作り出す
② チャネリングの防止:水の流れを均一に分散
③ 一貫した味わいの実現:抽出のばらつきを最小限にする
ブースターの使用方法
1. ドリッパーの底にブースターを置く
2. その上にペーパーフィルターをセット
3. 通常通りドリップを行う
日本だと京都のKiguさんで購入できるみたいですね(まわしものではございません..)
Sibarist Booster (シバリスト ブースター)kigu.coffee
ちなみにブースターがなければ茶こしなどでも代用可能とのこと。
要は、多数の微細な接触点を作り出せれば何でもOKってことですね。
これについては過去記事でScott Raoが推奨してた方法を取り上げて、
ぼくも試してたことありましたね。
プロの技:2つの抽出アプローチ
Mattは、コーヒーの種類に応じて2つの抽出アプローチを提案しています。
これらのアプローチは、接触点理論を実践に応用したものですね。
高抽出アプローチ
対象:クリーンで軽い味わいのウォッシュト(水洗式)コーヒー
方法:
- 温度:98°C(超高温)
- 挽き方:細挽き
- 注水:少ない回数、高い位置から
- 粉水比:1:17〜1:18
- 目標抽出率:21-22%
使用道具:
- ドリッパー:Ora or Hario V60(多数の接触点を活用)
- フィルター:CAFEC Abaca Filter(繊維構造が均一で接触点を作りやすい)
- ブースター(さらなる接触点の増加)
低抽出アプローチ
対象:ナチュラル(非水洗式)コーヒーや複雑な加工豆
方法:
- 温度:92-94°C
- 挽き方:やや粗め
- 注水:多めの回数、低い位置から
- 粉水比:1:15〜1:16
- 目標抽出率:18-19%
使用道具:
- ドリッパー:Kalita Wave(セラミック製、接触点を制限)
- フィルター:Kalita Wave Filter(やや厚めで接触点の影響を緩和)
まとめると、高品質な浅煎りのコーヒーは接触点の多いドリッパーで高抽出を狙い、
深煎りやナチュラルプロセスのコーヒーは接触点の少ないドリッパーで低抽出を狙うといいよーって話。
経験則的には分かってましたが、理論では説明できなかったので、
これは勉強になったなぁ。
これまでの流れを踏まえると、
抽出前にペーパーフィルターとドリッパーをしっかりとリンスし、フィルターとドリッパーをぴったり張り付ける行為も
"接触点を増やす"ことになります。(特にV60など)
ここは理論をしっかりと理解して、使い分けたいですね。
まとめ
以上、接触点理論の解説をしてみましたが、いかがだったでしょうか。
ここまで論理的に解説できるようになると、視点が広がって、ドリッパー選びが更に楽しみになりますよね。
自分のドリッパーの特性を理解し、適切な接触点を作り出すことで、プロ顔負けの抽出が可能になると思います。
接触点がどこにあるか、どのように水の流れに影響しているかを観察し、実験してみてくださいね。
それでは、Happy Brewing!