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チャネリングを阻止せよ!コーヒーを安定して美味しく淹れるテクニック

「コーヒーの味が安定しない」

「冷めるとコーヒーが美味しくなくなる」

という人に向けて、コーヒーの抽出で起こりがちな"チャネリング(不均一な抽出)"の知識と、その防ぎ方について紹介します。

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自粛生活で自宅にいる時間が増え、家でコーヒーを淹れる機会も多くなったと思いますが、

自分で淹れたコーヒーが美味しかったり、美味しくなかったりと、味が安定しないことに悩むこともあるのではないでしょうか。

 

ぼくも家で淹れるコーヒーについて、「今日は美味しい!」「今日はイマイチだな..」と一喜一憂することが多かったのですが、

コーヒーの味を台無しにしてしまう「チャネリング」の現象についての理解が深まってからは、

以前よりも安定して美味しいコーヒーを淹れられるようになりました。

 

今回はそんなコーヒーの味を台無しにしているかもしれない原因の一つ、"チャネリング"の現象と防ぎ方について、紹介したいと思います。

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不均一な抽出?お湯が抜け道を見つける?チャネリングって何だ!

 

チャネリングとは、エスプレッソまたはドリップコーヒーの抽出時に起きる現象です。

 

お湯コーヒーの層を均一に通り抜けず、かたよった箇所から大量に通り抜けてしまうことを意味します。

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↑極端な例

 

大量のお湯が同じエリアを集中して通過するため、

その経路に沿った部分のコーヒーだけ過剰に抽出され、渋みやエグ味を感じる成分を生み出します。

 

この現象が、ぼくたちのコーヒーを台無しにしている原因の一つかもしれないのです。

 

そもそも、チャネリングはなぜ起きる!?

 

理由1. コーヒー粉は水に濡れるのを嫌う

まずチャネリングが起きる最大の理由が、乾いたコーヒー粉水を弾く性質を持つことにあります。(この性質を疎水性と呼びます)

 

例えば、コーヒー粉乾いたエリア濡れたエリアの2つ箇所が共在するとします。

そこへ同じタイミングで水が流れようとするとき、乾いたエリアのコーヒー粉は水を弾くため、水は既に濡れているエリアを好んで進みます。

この性質が、偏った経路(チャネル)を形成するのです。

 

チャネリングが起きやすい例

1. 不十分な蒸らし

 ↪︎ドリップコーヒーの抽出時、1投目(蒸らし)の段階で、コーヒーが乾いたエリアを残した状態で2投目に移る

2. エスプレッソのポーターフィルターが濡れている状態で、粉を詰めて抽出する

 ↪︎粉を入れたときに濡れた箇所からチャネリングが起きる。(サイドチャネリング)

 

なお、抽出過程で最終的に全てのコーヒー粉が濡れたとしても、一度形成された経路は維持される傾向にあり、対策をしなければ不均一な抽出結果へと繋がります。

 

理由2. コーヒー粉の粒度分布がバラバラである

グラインダーを通って粉砕されてできるコーヒー粉は、グラインダーの性能によっては、その粒度の大きさにバラつきがあります。

コーヒーの粒子と粒子の間のスキマの差は、その間を進む水の流れに影響を与えるため、それがチャネリングを起こす可能性を高めます。

 

例えば、ぼくたちは人混みをかき分けて前へ進もうとするとき、少しでもスキマのあるところを目掛けて進もうとすると思います。

それと同じように、水もコーヒーの粒子間で抵抗の少ないところを見つけて進もうとするのです。

 

それが結果的に、不均一な抽出を招きます。

 

一方で粒子の均一性が高ければ高いほど、粒子間のスキマの差は小さくなります。

すると、水も偏った経路を進まなくなるのです。

 

プロのバリスタが高性能のグラインダーを求める理由の一つに、ここにあります。

 

理由3. 挽き目が細かすぎる/微粉で目詰まりを起こしている

 

"理由2"でも述べた通り、水は詰まっている箇所を避けて、より抵抗の少ない箇所から流れようとします。

すると不均一な水の流れは不均一な抽出へと繋がり、結果的にチャネリングが起こります。

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特に微粉細かすぎるコーヒー粉は、抽出過程でドリッパーの底へ沈んでペーパーの繊維のスキマを詰まらせ、お湯の通り道をクローズしてしまうため、

行き場を失ったお湯は抵抗の少ない偏った経路を辿り、不均一な抽出結果に繋がります。

 

この「挽き目が細かすぎるとチャネリングが起こりやすくなる問題」に関して、

バリスタなら知らない人はいないであろう2007年のワールドバリスタチャンピオンであるJames Hoffman氏も、彼のYouTubeチャンネルで検証結果を報告していました。

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["Is immersion brewing better than percolation brewing?"より]

 

【検証】透過抽出で、挽き目を"粗挽き"から"細挽き"へ調整していく

挽き目を細かくするにつれて抽出率は上がっていく

・ところが、"ある挽き目"を境に、抽出率は大幅に下がることが確認された

 

【Hoffman氏の考察】

・挽き目を細かくすることで、コーヒーの表面積が増え、抽出率は上がっていく

・しかし"粉の細かさ"一定のレベルを超えてしまうと、お湯の通り道がなくなり、抵抗の少ない箇所から大量に流れてしまう( = チャネリング)

・その結果、抽出率が大幅に下がったという結論

 

チャネリングを防ぐには!

チャネリングを防ぎ、均一に抽出されたコーヒーは、冷めても美味しい傾向にあります。

均一にコーヒーを抽出するには、以下のルールを守る必要があります。

 

1. 蒸らしを適切に行う

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コーヒー抽出の最初のステップである"蒸らし"の段階で、全ての粉をしっかりと濡らすことが非常に重要です。

蒸らしの段階で乾いたコーヒー粉が水を弾く性質を奪っておくことで、

次の2投目以降で湯とコーヒー粉が均一になじみ、チャネリングが起きる確率を減らすことができるわけです。

 

 

ついでに、ドリップコーヒーのオススメの蒸らし方法を紹介します。

蒸らしの段階でコーヒーの粉量に対して3~3.5倍の湯を注ぎ、ドリッパーを持って、クルクルと混ぜ合わせるテクニックです。

例えば、コーヒーが12gなら、蒸らしの湯量は36~42gになります。

 
 
 
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一般的なコーヒーのレシピでは、コーヒー粉の重量に対して2倍の湯量で蒸らす方法が推奨されていますが、コーヒー粉はその重量の2倍の水を吸収するので、完全に粉を濡らすには2倍以上の湯量が必要です。

全ての粉を完全に濡らし切り、上の方法でクルクルと混ぜ合わせるには粉量に対して3~3.5倍の湯量が最適です。

ぜひ試してみてください:)

 

なお、スプーン攪拌よりも、上記動画のように遠心力を使ってクルクルとまわすスピン攪拌のほうが手軽なうえに微粉が底に沈むことによる"抽出中の目詰まり"が起こりにくくなります。

 

ただしスピンもやり過ぎると目詰まりを起こす原因になります。

抽出後半で目詰まりを起こすようなら、やり方を調整してみてください。

 

 

2. スピン/タップを行う

 
 
 
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スピンは、ドリップコーヒーの抽出中にドリッパーを持ち上げ、 クルクルとまわしてコーヒー層を回転させるスキル。コーヒーベッドをフラットにする役割もあります。

 

タップは、ドリッパーを持ち上げ、ストンと落として、コーヒー層に振動を与えるスキルのことを指します。

 

抽出過程のコーヒーに遠心力/振動を加えることで、チャネリングを起こしている経路をリセットすることができます。

ただし、スピンやタップもやりすぎると微粉がドリッパーの底を詰まらせ、抽出後半に目詰まりを起こす結果に繋がるため、やりすぎには注意が必要です。

(スピンは2秒以下が推奨されています)

 

参考動画

2019年ドリップコーヒーのイギリス大会チャンピオンスピンタップのスキルを抽出中に使用しているのがわかります(1:40付近)

ちなみに、このレシピでは蒸らしに粉量(12g)に対して4.16倍のお湯(50g)と50秒の時間を使っていますね。

 

3. 挽き目が均一に揃うグラインダーを使用する

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コーヒー粉の粒度より均一微粉が少なければ

不均一な水の流れやドリッパーの底を詰まらせるリスクが減り、チャネリングを避けることができます。

 

なので美味しいコーヒーを淹れるならコーヒーの挽き目の揃う、高性能のグラインダーを手に入れることがマストになってきます。

しかしそうなると値段がなかなかするのが痛いところ..。

 

ぼくが家でコーヒーを飲む際に愛用しているグラインダーは、コーヒー大国ノルウェーの会社が開発したwilfa Svart Aromaです。

シンプル・ハイパフォーマンス・スタイリッシュの3拍子が揃ったマシンで、挽き目もある程度均一、家でコーヒーを楽しむには十分な性能です。

2万円ちょっとしますが、2019年に買ってよかったもののうちの一つです。

 

4. より熱い湯温で抽出する

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抽出温度が高くなるほど水の粘度は低くなり、水がより速く流れるようになるため、より抽出が均一になるといわれています。(流速が遅いと粒子間に不均一な流れが生じるようです)

 

したがって雑味を出さないギリギリのラインの熱い湯温を使用するのがオススメです。

 

なお、ドリッパーの素材はガラスや陶器性のものよりもプラスチック性のもののほうが保温効果が高く、温度を失いにくいとされています。

プラスチック製ならスピン・タップも行いやすいうえに、価格も¥300~と安いため、コーヒー初心者でも上級者でも非常に扱いやすいアイテムだと言えます。

 

 5. 垂直な台の上でコーヒーを淹れる

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意外と盲点なのですが、大切なポイントです。

コーヒーカー等、垂直ではない環境だと水が一方向に傾き、チャネリングが起こりやすくなりますので、気をつけましょう。

 

まとめ

 

今回はコーヒーの味を台無しにしてしまう現象、チャネリングについて紹介させてもらいました。

この情報が、ドリップコーヒーのスキルアップに役立てば幸いです。

 

コーヒーは温度や抽出時間、挽き目によっても味わいが大きく変わり、淹れる楽しみ方も様々ですし、コーヒー豆の産地によっても全く味わいが異なりますので、本当におもしろい飲み物だと思います。

これが飽き性のぼくがコーヒーにハマって抜け出せない理由でもあります。

 

また今回の記事を執筆するにあたっては、Scott Rao, Jonathan Gagné, Barista Hussle, James Hoffmanのブログ/動画を参考にさせていただきました。 

これらの情報発信者とはもちろん面識はありませんが、ぼくがオーストラリアでバリスタのキャリアをスタートした頃から、かれこれ4年ほどずっとフォローしているコーヒー業界の先導者の方々です。

 

経験0のバリスタだったぼくが、カフェで働けるようになったのは、この方々が知識を与えてくれたおかげでもあります。

コーヒーの深い知識を欲している方は是非、彼らのブログを読むことをオススメします。

 

今回の記事の参考文献

Why Spin the Slurry? — Scott Rao

Prewetting: When to do it, when not to — Scott Rao

Extraction Uniformity and Channeling – Coffee Ad Astra

If not Channelling, Then What? - Barista Hustle

 

全て英語で読めない!という方には、iKnow!ポップアップ辞書の使用もオススメです:)

 

「コーヒーが目詰まりする..」ということにお悩みの方は、こちらをどうぞ。

 

 

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