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【コーヒー】粉を動かす、アジテーション(撹拌)の使い方を解説

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"コーヒーをドリップで抽出するときに、粉を動かさないようにお湯を注ぐのがよい"

 

とコーヒーの淹れ方を習った方もいると思いますが、

実はコーヒーによっては、粉を動かしてあげたほうが美味しくコーヒーを淹れられることがあります。

 

粉を積極的に動かすスキルをアジテーション(撹拌)と呼びますが、

粉を動かす/動かさない、それぞれのメリットとデメリットを理解し、読者の方がアジテーションを上手に使い分けできるように解説します。 

 

アジテーションのメリットとデメリット


まずメリットから挙げてみます。

 

アジテーションをすると

コーヒーの抽出効率を高めたり、

②抽出の均一性を高めたりすることができます。

 

①コーヒーの抽出効率を高めるというのは、簡単に言えば、

一粒のコーヒー豆から引き出せる成分の量を増やせるということです。

 

引き出せる成分の量が増えると、甘みを伴った複雑な風味コクをコーヒーから感じとりやすくなるというメリットがあります。

その一方で、成分を引き出しすぎると渋味舌がザラつくようなネガティブな要素を感じやすくなるというデメリットもあります。

 

②抽出の均一性を高めるというのは、

コーヒー全体にまんべんなくお湯を行き渡らせることで、偏った抽出を避けられるということです。

 

水がよく行き渡っているエリア、そうではないエリア...といった場所ごとの抽出の差を減らすことができれば、味わいのバランスが良くなり、渋味を伴った過抽出のコーヒーになるリスクを減らすことができます。 

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一方でアジテーションのデメリットとしては、やり過ぎることで不均一な抽出を招くリスクが上がる点です。

 

「ん?さっきは抽出の均一性が上がるって書いていなかった?」

と矛盾に気づいた方もいると思いますが、アジテーションの難しい点はここにあります。

 

粉を動かすことでコーヒーの細かい微粉はコーヒー層の最深部へと沈みます。

その微粉が排出口やペーパーフィルターの繊維のスキマを塞ぐと、行き場を失った水は、より抵抗の少ないスポットを目掛けて流れようとします。

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そうして抜け道を見つけた水が特定のエリアを集中的に通ると、

その道に沿ったコーヒーの成分だけが過剰抽出され、渋味を伴ったエグいコーヒーになってしまうのです。

 

このようにアジテーションには均一な抽出を狙えるのと同時に、不均一な抽出のリスクを高めるというジレンマがあるため、

アジテーションをすれば絶対にコーヒーが美味しくなる!」という話ではありません。

 

しかし、メリットもデメリットもあるアジテーションの特徴を理解し、上手に使いこなせるようになれば、コーヒー1杯の味を自分好みにデザインしやすくなると思います。

 

 

アジテーションが抽出にどう影響するか?

 

抽出時、コーヒーの成分は水に溶け出していきます。

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抽出が進むにつれ、コーヒーのまわりの水はそのコーヒー自体から抽出された成分によって濃縮されていき、それに伴って抽出速度は遅くなっていきます

 

物質間の濃度に差があるとき、濃い方から薄い方へ、濃度勾配に従って拡散が進みますが、

抽出が進むにつれてその速度が遅くなる理由は、

コーヒーのまわりの水が濃縮されることによって、"コーヒーと水"の間の濃度の差が小さくなり、それに伴って拡散速度も遅くなるためです。

 

それをアジテーションによって、コーヒーのまわりの濃縮された水を強制的に分散させ、"コーヒーと水"の濃度勾配の差を再び大きくすれば、抽出効率を高めることができるというわけです。

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これは浸漬法だけではなく、透過法でも働く原理原則です。

 

「コーヒーの科学」という本で、段理論というのがありました。

 

これがなにかというと、

透過法では、注がれた水はコーヒー層を進む過程で濃縮されていき、

底部では"コーヒーと水"の濃度勾配の差が小さくなるため、コーヒーから水への成分の移行が起こりにくくなるという理論です。【コーヒーの層が移動しないことが前提条件】

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この理論と関連したバリスタの実験があります。

実験では、抽出後のコーヒーを上中下の三層に分け、それぞれの濃度を測ったところ、コーヒー層の上部から底部へ進むほどコーヒーの成分が抽出されずに残っていた、と紹介されていました。

 

これは先ほどの段理論を支持するような結果でした。

(とは言え、コーヒー粉の移行がどのように起きて最終的な結果になったのかは不明で、何かを結論付けるには至らない実験ではあると投稿者もコメントしています)

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つまりここから考えられるアジテーションのもう一つの大きな働きとしては、

勢いをつけたお湯をコーヒー層の奥深くへ到達させ、まだ引き出せる成分を残したコーヒーの層へ純水を送ることで、

抽出不足のスポットを残したまま抽出完了することを防ぐことができるのではないか、ということです。

  

いろいろなアジテーション

 

これまでアジテーションの役割と、その働きについて解説しました。

ここからはその種類を説明します。

 

アジテーションには、大きく分けて二つの方法があります。

 

①お湯を注ぎ終わった後に、手を使って撹拌させる方法と、

②お湯を注ぎながら、その流れの勢い(乱流)によってコーヒーを撹拌させる方法の二つです。

 

スピン

ドリッパーを手で持って、グルグルと遠心力を使って回し、コーヒーの層をかき混ぜる撹拌方法です。

コーヒー業界の教育分野を牽引するScott Rao氏によって広められたことにより"ラオスピン"とも呼ばます。


蒸らし時と、抽出終了後に行う方法の二つがあり、それぞれ目的が異なります。


蒸らし時のスピン

↪︎全てのコーヒー粉を確実に濡らすために使います。
蒸らし時にドライスポット(乾いたエリア)を残さないことで、次からの注湯で起こりうる不均一な抽出のリスクを減らすことができるというメリットがあります。

サードウェーブコーヒーが流行して以来、主流であったスプーン撹拌よりも有効とされています。

 


注湯後のスピン

↪︎コーヒー層に遠心力を与えることで不均一な抽出が発生している経路を潰し、更にコーヒーベッドを平らにすることで最後まで均一な抽出を狙う目的で使います。

 

一方で、微粉を底に沈めて詰まらせしまうリスクを高めるため、やりすぎないように注意が必要です。

 

 

乱流

↪︎水の勢いによって、コーヒー層を撹拌する方法。[動画は"Barista Hustle Japanから引用"]

 

一定の注湯のスピード高さを保ち、垂直に水を注ぎ入れることが、効率的でコーヒー層を深く撹拌するのにとても重要だとされます。

 

詳しくは 天体物理学研究者ジョナサンのコーヒーブログ、Coffee Adastraの「ケトルから注がれる水の物理学」を参考にしてみてください。

coffeeadastra.com

 

ジョナサンによると、ベストな注ぎの高さは、液面の水が飛び散る音が聞こえ始める位置から、やや下のポジションです。

この高さから垂直に水をコーヒー層へ注ぎ入れることで、撹拌を最大化させる最も良い結果を得ることができたということです。 

 

ただし

・ケトルのネック部分の構造によって撹拌の結果が大きく変わる

・微粉の量によっては注ぎの高さや流量を調整する必要がある

とも書いてあるので、自分のグラインダーやケトルの性能を確認しながら、検証してみる必要がありそうです。

 

 

まとめ

 

以上、アジテーションの解説でした。

 

アジテーションは浅煎りのコーヒーに応用されるイメージがありますが、その理由としては、深煎りと浅煎りの抽出効率の差にあります。

 

焙煎された豆は、中にたくさんの空洞があって、浅煎りになるほど空洞の数が少ないので、「空洞の数が少ない=表面積が小さい」ということで、その表面積の小ささが、成分を取り出しにくい原因となっているようです。

 

逆に、深煎りは空洞の数が多く、成分を取り出しやすい構造になっているため、深煎り文化が根付いている日本で、"粉を動かさないように抽出するのが良い"というのは理にかなったアドバイスといえます。

 

しかし、浅煎りの抽出には、撹拌によって抽出効率を高めてあげるような一手間がやはり必要だと思うので、この記事で紹介したスキルを是非試してみてください。

 

また、アジテーションをするとコーヒーが美味しくなくなった」、と結論付けた話を聞くことがありますが、

それは抽出効率が上がったことで、単純に美味しいスポットから外れてしまったことも一つの要因として考えられるため、

アジテーションを使った抽出をする際は、いつもより粉量を減らす/湯量を増やしてからチャレンジしてみることをオススメします!

 

不均一な抽出(チャネリング)についての記事や、アジテーションを使ったコーヒーの淹れ方を解説した記事も書いているので、よろしければ読んでみてください:)

 

 

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参照文献など

IG Live chat with Jonathan Gagné! - Scott Rao

The Physics of Kettle Streams – Coffee ad Astra

COFFEE TIPS OF THE DAY - Scott Rao